はふ、と息をついた自分の頭をぽんと叩き、エクボが身を起こした。ああ、ゴムか、とベッド下へ伸びた腕を見るでもなく見やる。霊幻はベッド下には何も置かない主義だというのに、百均で籠を買えというから買ったらエクボはそこにゴムやらローションやらを収納し始めた。好き勝手にやる悪霊である。
明かりを落とした室内に紙箱の音が立ったがしかし、普段ならすぐビニールを開封するエクボの動きがない。顔を見れば、頭上の男は眉を寄せていた。
「……どうした」
「無ェ」
「……ゴム?」
「この間ので最後だった」
そういやそうだった、とエクボがぼやき、空箱をローテーブルの足元へ放る。だからゴミはゴミ箱に入れろというのに。
「……仕方ねえな、忘れてたモンは」
仕方ねえじゃねえわそれ俺の台詞だろ、と思ったが実際仕方ない。前髪をかきあげてふう、と息を吐く。エアコンの涼しさをようやく肌が拾って心地いい。
「ま、いーさ。たまにはやむを得ん。しかし言っておくが、」
「コイツの財布から払うなってんだろ、お前さんの借りてくぞ」
――……ん?
数秒の間のあと、霊幻は首を傾げた。言おうとしていたのは、出す前に抜けよ、である。しかしまたもエクボに先を取られてしまう。
「お前さんは休憩時間と思って、」
「いや、待て待て待て、まさか買いに行くのか?」
「そう言っただろうが」
「言ってねえよ、仕方ねえとは言ったが」
「だから買いに行くんだろ」
「今?」
尚も聞き返すとエクボは目を丸くし、ベッドから降りかけた動きを止め、手のひらでぴたぴたと霊幻の頬を叩いた。出かける手前に仕方ねえな、とでもいう素振りで。
「いまいち噛み合わねえな。さっきいったのそんなに良かったか?」
「ち……っげぇよ馬鹿か」
良かったは良かったが、会話にならないほど飛んではいない。
「この状況で買いに行くってお前……、だってお前それ、その状態で出かけんの?」
まさにゴムをかぶせようとしていたところである。パンツが履けるのかという状態だ。自分だったらそんな奴に外で遭遇したくないし、そんな状態の奴を出歩かせたくない。下手したら通報だ。借りてる奴にも申し訳なさ過ぎる。
エクボもそれには同感だったようだ。む、と一つ唸る。
「……なんか羽織るもん貸せ」
「断っていい?」
「あァ?」
「そんなもん隠すために貸したくねえ……」
「そんなもん突っ込んでだろうが」
「それは別の話だろ!」
めんどくせえな、とエクボは顔にでかでかと書いたが、今から買いに行く方が余程面倒ではないのか。
「じゃあどうしろってんだ」
「なくていい」
「あ?」
「ゴムはなくていい。今日だけな」
「…………」
霊幻をしげしげ見つめたままたっぷり十五秒、エクボは黙った。言葉の咀嚼に時間がかかっているようだった。それから目線を横に向け、首を捻り、天井を仰いだ。よくその下半身で長考できんな、と思ったが、感覚を切っているのかもしれない。たまにそういうズルをするのだ。とりあえず、ずれた枕を頭の下に戻してしばし待つ。
「――だめだ」
ようやく結論を出したらしいエクボが、渋い顔を霊幻に向ける。
「なんで」
「腹壊すぞ」
「出す前提か。その前に抜け」
「俺様はお前さんの中でしか出さねえと決めてんだ。だからゴムがねえと困る」
「――え、……え?」
初耳だった。優しいのか勝手なのか分からないが、何となしに気持ちが浮わついてくる。つまりは自分のことが好きなんだな、と感じ入りかけたがしかし、はっと我に返る。
「いや出してたろ、入れる前は」
「そりゃ入んねえうちはな」
「同じじゃねえか……。あーもー、そこまで言うならいい。中で――」
中断されて身体が冷えてきた。最中はエアコンの設定温度を低めにしている。自分は一度いっているからこのまま終えても構わないが、気持ち的に不完全燃焼だ。出したらすぐ風呂でかき出せばいいだろう――そう思ったというのに、喋っている途中で口が塞がれた。
「…………」
「だめだ」
何か言いたげな顔をしているくせに、まだ熱い手のひらをしているくせに、何も言わず駄目の一点張りだ。コミュニケーションがなってない。
まだるっこしい、とエクボの手首を掴んで引き寄せ、反動で上半身を起こす。うお、と小さく叫んで入れ違いに倒れてきた身体をベッドへ沈めれば、薄いマットレスは重みに揺れた。こんな会話をしている間にも萎えなかったそれに手を添え、後ろへあてがう。
「――オイ、」
「入れてえのか入れたくねえのか」
「…………」
「無言は前者と見なすからな」
ぐう、と唸り声が聞こえた気がするが、否定の言葉はない。騎乗位は未経験だが、どんな体位であろうと要は入れればいいわけだ。さっきまで嫌というほど慣らされていたのだから問題ない。とにかく、霊幻はここで買い出しになど行かせる気はないのである。
しかしそのまま押し込もうとすると、腰を掴まれ動きを止められた。この期に及んでか、と細めた目を向けると、エクボが両手を軽く掲げる。
「ここまでされて止めねえよ」
「じゃ何だ」
「あるモンはちゃんと使え」
睨むなっての、と言い、エクボは諦めた顔で枕元の方を指で差した。さっきまでエクボの手の平にあったローションボトルが転がっている。つまり、自分の中は十分なはずだ。入り口も内側も滴るほど塗りたくられて、奥をぬるぬると撫でられて達したのだから。
思い出すと背に感覚が蘇ったが、エクボに顔を向ける手前の一瞬で表情を元に戻す。
「別にこのままでもいいだろ」
「俺様にも塗らねえとだめなんだよ。ここまで、」
「っ」
途中で言葉を切ったエクボの指が下腹を撫でた。臍の下から下生えの間でゆっくり円を描く。繕ったばかりの表情が崩れ、触れられた肌の奥が熱くなる。
「指じゃ届いてねえだろ」
指じゃなくたってそんなところまでは届かない。そう思っても、上向いた性器が指す先をなぞられればその気にもなる。――これにまた、奥を満たされるのだと。
手に伸ばした液体を、根本から先端へ塗り広げる。ゴムのないそれに触れるのは初めてじゃない。後ろに入れられるようになるまではお互いのものを扱きあっていた。けれど、入れる直前だからか記憶よりも熱く、固く感じた。皮膚の柔らかさと、幹の固さ、隆起する血管が手のひらに伝わる。また固くなる。自分の鼓動が僅かに速くなる。
もういいぞ、と声をかけられ、頭がぼんやりしていたことに気付いた。腰を浮かせ、ちらりとエクボを見れば、挿入する箇所に向けられていた視線が自分を捉えた。ニィ、と笑う顔はもうすっかり楽しむ顔になっている。さっきまでだめだと止めていたくせに、こういうところは悪霊だ。
「一度に入れるなよ」
「……出ちまうから?」
「ちげーわ」
口を曲げたエクボに一つ笑いを返してやって、腰を落とした。ぬめりに滑らないよう意識を向け、先端を押しつける。が、少し押しつけるだけでは呑み込めない。ある程度力が必要だ。
「一人でできるかァ? 霊幻先生」
「……うるせ」
いつの間にか再び立上がっていた自分自身をエクボの目の前に晒し、さらに後ろに性器を押し当て、微妙な位置や角度を調整している。じわじわと高まっていく羞恥心の方が許容値を超えそうだ。これは一度思いきった方がいい、と目を瞑り、腰に力を込めてそれを呑み込んだ。身体が広がり、先端の尖りがくぷんと埋まった感覚に、喉から息が漏れる。
「……っ、」
体勢が違うからか、普段ならきつくはないそれが少しだけ苦しい。何かつかえているみたいだ。でも先端が入ればあとは知っている通りに進めばいい。呼吸を整え、よし、とまた気合いを入れる。――と、自分の名を呼ぶ声とともに腰をゆるりと撫でられた。
「……なに」
「身体、少しだけ手前にずらしてみな」
さっきとは打って変わって声は穏やかだ。が、指の動きは腰骨の上で欲を煽るし、目の奥がちりちりと燃えている。
「苦しくねえ角度がある。いつも俺様が入れるときと同じだ。……見つけりゃ分かる」
いつもなら見上げる顔は今は下にある。でもそう、同じだ。興奮に灯る目も、それでも自分から目を離さないところも。
――いつも、って。
どうだっけ、と考え始めた瞬間、
「ッ、」
重い快感と身体を広げられる感覚が蘇って、入口がきゅうと締まった。意識外のことに背が弓なりに反る。期待しているようで、いや、実際身体は思い出して期待したのだ。言葉一つで反応したことに顔が熱くなる。
さぞ悪い顔で笑っているだろうとエクボを見たがしかし、照れ隠しに睨んだ顔を崩される。上がった口の端は確かに悪いし、まだ霊幻に合わせて堪えているが、さっきよりずっと余裕がない。いつまでも大人しく待ってはくれない。そういう予感がする。
「……思い出したな?」
「……だした」
「なら、分かるな」
「……う」
思っていた以上にエクボに教え込まれていたようで悔しいが、ここは助言に従うのが一番いい。早くしないと獣が牙を剥きそうだ。言われた通り後ろの角度を探る。
腰を沈めようとして抵抗があるところは違う。入れて、少し戻して、角度を変えてまた潜らせる。僅かでも出し入れしている感覚だけが先行して焦れったい。とっくに、もっと先まで準備はできているのに、と思うようになれば身体の方が勝手に動いていった。馴染んだ感覚を探し出すと、僅かな苦しさも気持ちの良さに変えてそこを開いていく。
「は……っ、あ……」
「そうだな、その辺りだ」
中腰に堪えていたのもあって、腰と腿に入れていた力を抜いていく。少し前の抵抗が嘘のように、重力のまま呑み込んでいく。
「ん……っあ……あ、」
「こら、いっぺんに入れようとすんな」
でも、苦しくない場所を見つけたら止まらない。中はもう出来上がっていて、この先の快楽も知っている。それに、今日は。
「霊幻」
窘めるように呼ばれるが、身体は沈んでいく。欲を堪えた目でこちらへ視線を向けるエクボの顔が、僅かにぼやける。はく、と口は動いたが、何を言おうとしたのか分からない。苦しくねえか、と聞く声を遠くで聞いて、頷いた。少しも苦しくない。入り口はもういっぱいで、軽い目眩を覚えたあと、指で慣らされた場所の先にそれが届く。熱い息が漏れた。
「…………っ、きも、ち……」
ごく、とエクボの喉が鳴るのが聞こえた。薄いゴム一枚がないだけで、それが粘膜を直接押し広げ、体内を擦っていくのが分かる。つけているときの方がスムーズなはずなのに、なぜか今の方が身体に馴染んだ。
エクボに支えられながら、最後まで腰を下ろした。抱き合ってするときと深さは同じはずなのに、何かが違う。自分で上半身を支えるのがやっとだ。
「……霊幻、動けるか?」
聞かれ、少し間を開けて、腰を動かしてみた。しかしそれだけの刺激に中が反応して動きは止まり、動いているとは到底言えない。そのうちに締めつける頻度の方が高くなって動けなくなった。呼吸までもう浅くなっている。
「霊幻、」
目を開けると、エクボが眉を下げて笑っている。
「お手上げか?」
こく、と頷いた。すると待っていたように腕を引かれ、倒れた身体がエクボの上で抱き抱えられる。変わった角度と刺激に、んん、と喉の奥で声を殺す。しかしそれを察したエクボが、霊幻の目の前にある欠けた耳を指でたたいた。
「声は?」
「ぅ、」
抵抗はあっても、どのみち声は止められない。そうなることを知っていて、あえて意識させるために言う。
「おまえの、そういうとこ……」
「好きだろ」
「ッ、あ!」
言うなり下から突き上がられ、大きく口が開く。重みで深く繋がった身体をゆさゆさと揺らされ、声は上擦り、身体は揺れながら跳ねた。
「あ、ア、あ……っ」
「いきそうか?」
こくこくと頷くと、性器に手を伸ばされ身を捩った。しかし体勢が不安定で快楽が分散する。両肩に腕を回して、与えられる刺激が逃げないよう身体を押しつけた。
「っエク、えくぼ、」
「気持ちいいなぁ、……なぁ、霊幻」
今日は言えたな、と囁かれてまた絶頂に近付く。
――『気持ちいい』。
霊幻が口にしない代わりに、エクボはずっと刷り込むように囁き続けてきた。今となってはエクボが気持ちいい、と言えばそれは気持ちのいい行為だと身体が認識するようになっている。
「……イ……っ、も……、い、く」
「ああ」
ぎゅう、と下の身体にしがみつくと、大きく腰を押し上げられた。同時に先走りを溢れさせていた窪みをぐるりと撫でられ、全身が跳ねる。
「――ッ…………ぁ、あっ、あ……」
促されるままエクボの手に吐き出し、完全に脱力した。ずるりとベッドの上に降ろされ、上下が入れ替わる。そのまま身体の中からエクボが出ていって、抜かれる感覚に身体が震える。
「えく……」
「ちょっと待ってな」
霊幻が出したものを処理するために抜いただけと分かっても、出ていかれたくなかった。戻ってきたエクボが自分の顔を見、目を細めて頭を撫でる。
「ここでゴム買いに行くっつったら、今度こそキレんだろうな」
「……鍵かけてもう入れねえ」
「そりゃ勘弁」
くく、と笑い、大きさを保ったままのそれが再び入ってくる。抵抗はなく、ただただ気持ちがいい。ゴムがないのは初めてだからだ、と回らない頭で理由をつける。
「……クセになんなよ?」
「……なりそう」
「ま、俺様もだが」
でもそうそうしねえぞ、と腰を揺らしながら言うのに、一応うんと答えたが、半分くらいは喘ぎのような返事だった。
クセになるなよと言いながらも、エクボの動きが激しくないから感覚の違いを追ってしまう。これじゃ覚えさせてるようなもんだ、と見上げれば、満足げに見下ろす顔と目が合った。その表情を見ていたいと思うのに、揺さぶられるたび熱が高まってどうしても目を閉じてしまう。内側からの熱が頭の芯まで溶かしそうだ。あと少しでも明確な刺激をくれれば、と身体はまた上り詰めることを欲するのに、でもエクボが動かない。普段は感じることのない細かな隆起や感触が、ぬめりとともにただ優しく内側を愛撫する。息が震える。
「れーげん」
エクボの手のひらが頬を撫でた。薄目を開けると、目尻から涙が落ちる。
「気持ちいいか?」
「…………ぃ」
「もう一回聞きてえなあ」
「……いま」
「ちっとしか聞こえなかった」
この野郎、と思うのに、細めた目がとても悪霊には見えなくて、口を薄く開く。それでも躊躇っていると、頬に当てられた手は後ろへ回り、長い指がうなじから髪をかき上げていった。指先が髪を梳き、絡め、優しく引く。髪の中をゆったりかき混ぜられて、弱々しくも残っていた思考が温かい手に溶けていく。
「…………、ぁ…………きもち、い……」
に、とエクボの口の両端が上がったのが目の前で見えた。それがぱかりと開いて、唇を塞がれる。飴玉を転がすみたいに舌先を絡めるからくちゅ、と何度も音が鳴った。舌を吸って、奥まで突き上げ霊幻の熱を解放させると。腰の動きが大きくなった。あ、出すんだな、と朦朧としながら思った――のに、それは急に霊幻の中から出ていこうとする。はっとして、立てた膝で動きを止めた。震えていて、止めるにはとても力が足りなかったが。
「コラ」
「や、だ」
「れーげん」
「抜かなくて、いい」
眉を下げながら笑うエクボが、嗜めるように膝頭を叩く。
「だーめーだ」
「中がいい」
「あのな、」
「はら、いてえくらい」
「……それだけじゃねえんだなあ」
それだけじゃないって、なに、と聞き返そうとしたが、再び深く貫かれ言葉が詰まる。エクボの手が頭の後ろに回り、耳元に口が寄せられた。直に出すのはな、と低い声が鼓膜を揺らす。
――俺様がフルパワーのときにな。
囁くように続けられ、一瞬の間のあとぶわ、と足の先まで熱くなったのが自分で分かった。
「――え、あっ」
動揺している間にエクボが自身を抜いてしまう。ずりぃ、と文句を言う間もなく、一二度しごいて腹の上に放った。生温かい感触に身震いする。長い息を吐いたエクボが身体を丸め、ベッドに頭を押しつけた。
「……っ」
おい、と訴える視線だけを真隣に向けると、汗を滲ませ、すっきりした顔がこちらを向いた。理由は分からないが機嫌が良さそうだ。
「硬直してどうした」
「お前が腹に出すから動けねえんだよ……」
言うと、ニイと唇の片側を上げる。この上なく楽しそうな顔の理由は続いた言葉で理解した。
「中に出されたかったのに悪かったなァ」
「今言ってんのはそこじゃねえ……!」
ハイハイと笑ったままエクボは起き上がり、取り出したティッシュでそれを拭き取る。行為には慣れたが、この後処理は初めてだ。落ち着かない。大体腰回りに散っているのは霊幻自身が出したものでもあり、そこまで拭かせるのはいかがなものかと甲斐甲斐しく動く手を止める。
「……よし、あとはやる」
言うと、ぱちりと目を開いたエクボは、ふっとおかしそうに吹き出した。
「お前さんの意識するポイントは分かんねえなァ」
「……俺だって今日初めてお前にこだわりがあんの知ったぞ」
「ま、それなりにな」
やる、と言っているのにエクボはティッシュを寄越さず、喋りながら身体を拭き続ける。
『俺様はお前さんの中でしか出さねえ』
そう言ったエクボは、ゴムが必要だと譲らなかった。
『俺様がフルパワーのときにな』
初めて聞いた。そんなことができるならしてみたい。というかその方がいい。エクボ本体ならゴムとか中出しとか考えないでいい気が――、いやそこは追って確認するとして、とりあえず今よりは複雑じゃない。ただ万一ゴムが必要となった場合、サイズが懸念されるし市販品で用は足りるのか。
「なあ」
「……お前さんに考える隙を与えちゃいけねえっての忘れてたぜ」
いつの間にか拭き終えていたエクボは思考中の自分を眺めていたらしい。呆れた目線が遠慮なく注がれる。
「聞きたいことがある」
「まだフルパワーではできねえからな」
「……準備するもんとか」
「ゴム買うの忘れねえ方が先だ」
回答は先送りらしい。期待させといてなんだよなー、とシーツの上で転がると、掛布団を引っ張り上げたエクボが隣に到着した。
「オラ、冷えるからこっち来い。入んねえならクーラー消すぞ」
肩越しに振返ると、布団をめくって待っている。強面の中身は悪霊で、それが中出しや霊幻の腹具合や寝冷えの心配をする。一応事業主で三十が見えているれっきとした大人なのだが。
もそもそと潜ると、布団が落ちてきた。隣の男が伸びをする。そうか、これがフルパワーになるのか、ともう一度考えてみる。考えたら、ふ、と笑いが零れた。
「?」
「何でもないぞ、全然」
「……誤魔化す気もねえな……。もう寝るぞ」
「おーおやすみ」
へーへーおやすみ、と返す男にぴたりと寄り添って、目を閉じる。
隣にいるのが本来の姿でも、憑依体でも、変わらない。中で出されもいいなんてエクボじゃなければ思わない。いつの間にか随分好かれたなと思ったらお互いさまだ。
あーあ、と余計なことに気付いてしまい、声に出さずにまた笑った。
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