そろそろ日付が変わろうとする頃だった。ジョン食事の支度が整い、あとはノースディン用のカルパッチョを盛るだけと冷蔵庫を覗いてふと、リビング周辺にヒゲヒゲしい気配がないことに気が付いた。そういえば数時間前、洗濯機を回したときにすれ違ってから見ていない。
いつもこれくらいの時間に三人で食卓を囲んでいて、何を言わずともリビングに集まってくるのだが珍しい。既に首にナプキンを巻き付けていたジョンに、ごめんね少し待っててくれる? と告げ、書斎へ向かった。こういうときは大体そこだ。
「ヒゲいます? 入りますよ」
濃色の扉を二つ叩いて、ノブを下げる。窓の外と同じ夜色の部屋の中、光量を絞ったランプの光が丸く浮かび上がって、辺りに積まれた本を照らしていた。書棚の前には予想通りノースディンの背中があったが、余程集中しているのか振り返らない。
「何かあったんです? その辺そろそろ雪崩が起きそうですけど」
デスクの上、床の上、書棚から本が抜かれて生まれた隙間にもまた本が平積みにされている。片付けるときになって後悔するパターンだ。ドラルクが室内へ足を進めると、ようやく声だけが返ってくる。
「……少し調べ物があってな」
「それは見りゃ分かりますよ。お父様案件です? 分からんものは分からんって、たまには突っ返した方がいいですよ」
部屋の惨状のわりに、成果ははかばかしくなさそうだ。愛用の付箋は窓辺に避難させられているが、積まれた本からは数枚しかはみ出していない。その本も別の本の下敷きになっているから、さほど有用ではなかったのだろう。
――というか。
自分がここへ来た理由などいつもならすぐ分かる男なのに、動く気配がない。不自然だし、ジョンが待っているし、自分と目を合わせないのが何より気になる。
「ノースディン」
「……なんだ」
名前、しかもフルネームで呼んでも視線は本から外さない。ほほう、と目が細まる。両手を腰に当て、つかつかと近付いて、本棚とノースディンの隙間に無理矢理割り込んだ。
「やましいことでも?」
「……な、そんなわけあるか」
そう言う癖にほんの僅か、ドラルクを避けるように身体の向きを変えた。それを追えばまた少し左へ回る。またドラルクが動くのを察して半回転するのを、逆に回り込んで捕まえてやったら今度は往生際悪く上を向いた。
「何五歳児並みの隠し方してんだ」
これ以上逃すかとベストの両脇を掴めば、ノースディンは盛大にため息をついた。無理に振りほどけば自分が砂になる。これで回転ごっこは終了だ。
「……食事はあとでいく。すまんがジョンと先に食べてくれ」
「五分前ならそれで引き返しましたけどね。この状況でハイって言うと思います? ていうかいい加減こっち向け」
「向けん」
「向けない原因を調べてるんですか」
「……そうだ」
「って説明も、私の目を見ては言えないと」
「……」
へえ、へええええ、と服を掴んだまま顔を覗き込もうとするが、ノースディンは頑なに目を合わせない。決して口は開くまい、という顔だ。でも内心気が咎めるのか迷いがある。それを隠さないあたり、大したことではないのだろう。
「ま、そういうことなら仕方ないですね」
「……ドラルク」
「恋人に目も合わせられない事情なんですもんね? 目を逸らすのは不実の始まり……いや、終わりの始まりでしたかな? いいですよ万事は移り変わるもの、あ、目にゴミが」
そっと目元を抑えて見せる。数々の嘘泣きを見破ってきた男にこんな演技が通じるわけはない。まずゴミなど入った時点で死んでいる。けれど。
「……やっとこっち見たな」
苦み走ったノースディンの目線が、ようやく自分を正面から捉えた。特に変わったところは見受けられない。が、こちらを見る目は徐々に細められ、堪えきれずに瞬きをした直後、微かに眉が顰められた。それこそゴミでも入ったように。誤魔化しではない表情に、ドラルクも真顔になる。
「え、まさかどっか悪――、……ん?」
ノースディンは引き続き顔を顰めながら、視界から何かを払うようにパタパタと手を振っている。埃でも払う動きだが、しかし埃じゃない。払い飛ばされた何かは平たく微かな光をまとっていて、宙をくるくると舞うと下へ落ちていった。ノースディンを見れば指先で目を押さえている。
「……痛いんですか、目」
「痛くはない」
「アイメイクに挑戦」
「こんなに落ちてきたら用を為さんだろう」
「おや興味がおありで?」
「……」
冗談ですよハイ見せて、とむっすり細めた師の目を確認する。言う通り、瞬きをして目を開けたときにその光るものはぽこんと生まれ、重力に従って落ちるらしい。視認はできるが小さい上、軽すぎて掴めない。粉雪のようだ。
「雪でも氷でもなさそうですけど、何なんですそれ」
「それを調べてるんだ」
足元にしゃがみ、床に落ちたそれに触れてみる。雪のようだが溶けはしない。さらりとしていてまだ微かに光っているのが不思議だ。そして、舞っているときは気付かなかったがその形が。
――桜の花びら……に見えなくもないけど。
「……ハート?」
その場にしゃがんだままノースディンを見上げる。渋面の師がこちらを見て瞬くと、表情とは不釣り合いに光るハートがハラハラと落ちてくる。その真下に手を差し出せば、数枚が手袋の上で重なり合った。
「……目からハートが出ちゃうってこと?」
「……違う言い方をしろ」
「氷笑卿が、目からハート」
「お前な……」
本を片手に文句の口を開くが、一度でも瞬きをすればまたキラキラと降ってくる。堪えていた口元がふるふると震え出した。
「っふ、」
「笑うな」
「いやだって、アンタが目からハートって、……っフ、フフフフ」
「視界不良で敵わん」
「んふふふふ」
笑うなと言われると余計おかしくなり、ない腹筋が痛い気がして軽く死ぬ。
「戻るぞ、ジョンが待ってるんじゃないのか」
「アンタが下手な隠し方するからでしょう」
笑いながら生き返ったが、部屋を出る前に意味のない伊達メガネを装着したノースディンを見て、また半分くらい砂になった。
夜食かたがたジョンとも話を聞くと、目からハートめいたものが出るようになったのは数時間前から。痛みはないが視界に邪魔。瞬きのたびに出るわけではなく、今のところはドラルクを見ているときだけ、ということだった。洗濯カゴを持ったドラルクとすれ違ったときに目がチカチカし、気が付いたそうだ。なお伊達メガネはレンズにハートが貼り付くことが分かったため、今はもう諦めて外している。
「つまり私のことが好きすぎてハートが出るようになった、ということですかな」
見えない手帳に書き込む身振りで尋ねると、チェックの鹿追帽をかぶったジョンも真似をする。
「探偵ごっこをしてる場合か」
「ハートが出る前後で何か変わったことは?」
「聞け」
「洗濯する姿にときめいたとか、胸をしめつけられたとか」
「元歌の分からん鼻歌に頭が締めつけられた」
「ああ、あれ! 昨日買ったクソゲーのオープニングですよ。一緒にやりたくなっちゃった?」
「書斎に戻っていいか?」
「なるほど〜素直じゃないからハートが出ちゃった病ですな! どうかねジョンくん!」
小さな手がヌチヌチと拍手をくれる。大正解の紙吹雪まで撒いてくれた。
「……お前たちはいかなる事態でも楽しそうだな……」
「楽しいですもん」
実害のない面白事態だ。しかもノースディンからハート。似合わなすぎて楽しいに決まっている。
一人難しい顔のノースディンはテーブル上のクッキーをつまんで口に運んだ。クッキーを見ていれば瞬きをしてもハートは生まれない。なのでなるべく、自分を見ていないときに瞬きをしているらしい。
「ヌヌン」
「ん?」
ドラルクの膝で同じくクッキーを食べていたジョンが、しばしノースディンを見つめたあと、こちらへ顔を向けた。
「花粉? え、私がスギ? 違う。……ああ、うん、なるほど」
「何だ?」
「全部出しきったら止まるんじゃないかって。そのハート」
「……そうかもしれんが、その場合お前をずっと見てることになるぞ」
「いいですよ別に」
視線を集めることに苦痛はない。むしろいい気分である。ジョンと私の完璧なるツーショを目に焼きつけるがいい、と思ったがしかし、愛しの使い魔はクッキーをナプキンに包んで席を外そうとしている。
「あれジョン、どこ行くの」
にこ、と笑ったジョンの目が何かを達観している。ゲームしてるヌ、と返事をすると、戸惑う自分を置いてとことことリビングを出ていってしまった。
「ええ……、私一人でヒゲのモデル?」
「……好きに動け。私の方はお前が視界に入っていればいい」
「そう改まって言われるとやりづらいんですけど」
じ、と赤い瞳がこちらを見つめる。正面から見つめられるとなると落ち着かない。ならば後片付けでもしようか、とシンクへ向かうと、ノースディンもついてきてキッチンの壁に寄りかかった。
――面白いっちゃ面白いんだけど。
ちら、と目を向けると、何だ? というように軽く首を傾げる。表情はいつもと変わらないのに、目蓋が動くたび儚い光が舞い落ちる。払うのも面倒になったらしく零れるがままだ。近くで見れば目からハートのファンシー卿だが、離れた距離で見ていると、時折雫のようにも見えて落ち着かない。冷蔵庫や食器棚を開けても元々散らかっていないからやることがないし、背中にはずっと視線を感じる。視線の先は今、自分の背を捉えているのか、扉を閉めた手なのか、足なのか。無表情に見ているのか、まだハートは落ちているのか、どういう――。
じり、と身体に熱が灯り、振り返ろうとした矢先、後ろから緩く抱き締められた。
「……そういう……びっくりして死ぬでしょうが」
「今は死ななかっただろう」
気遣いに甘んじよう、と落とされた声に遠い目になった。やけに撤退が早いと思っていたらこれを見越していたらしい。さすが私のジョンである。
汗が一粒落ちてきたあと、追うようにして紙片のようなハートが降ってきた。薄くて乾いているから、直接肌に触れると少しくすぐったい。
「っふふ、……全然止まらないっていうか、増えてません?」
「ずっとお前を見てるんだ、仕方ないだろう」
「これはまた、結構な口説き文……っう、ん」
含み笑いを続けていると、繋がった身体を下から揺さぶられた。一度中にさえ入ってしまえば、僅かな圧迫感くらいで死ぬことはない。中の熱はまだゆったりとしか動かないから、こうしてお喋りだってできる。
「素直に、私のことが、かわいくてしょうがないって」
「認めているからこうしてるんだろう」
「目からハートが出ちゃうくらい?」
「……ハート型に見えなくもないもの、だ」
不本意、と顔に書いた男がドラルクの身体の上でまた瞬いた。目を閉じて待っていれば軽い感触が肩や胸に落ちてきて、ノースディンの指がそれらを優しく払い落としていく。ドラルクが笑っているのは、降るハートによるくすぐったさだけではない。
「ご機嫌だな」
「そりゃあね」
好きな男の目からこんなにきれいなハートが落ちてきて、傷つきようもない儚さなのに、それを払おうと丁寧に触れてくる。両方相まってとてもいい気分なのだ。せっかく払い終えたところでうっかり瞬いてしまい、む、と口を結ぶのを見てまた笑う。そうするとまた窘められるように身体を揺らされ、息が洩れる。随分甘いご不満の訴えだ。
「そのままでも、いいのに」
「……そのうちこれがチクチクするとか言い出すんだお前は。そうでなくともくしゃみで死にかねん」
「それで律儀に取ってるんです?」
「何百年経っても手がかかるな」
やれやれといった口調で零したノースディンの腕が背に回り、軽く身体を浮かされた。動き出してくれることを期待したが、払い残しがないか確認しているだけらしい。やれやれ、はこっちの台詞である。
「かかるんじゃなくて、かけたいんでしょ。それとも……ハートに持ってかれちゃったんですか?」
こちらのやる気、と囁いて腰を揺らすと師の動きは止まり、それから小さく笑った。あ、ヤバ、と思ったがもう遅い。有り得ないだろう、と言わんばかりに根元まで押し込まれ、ぴんと伸びた脚が浮き上がった。ノースディンの下腹の肌が、過ぎる準備のせいでいまだに濡れている入り口を擦る。再び粘膜にすり込むような動きに頬が熱くなった。
――どういう、顔して、やってんだ。
そう思っても、ドラルクに見上げる余裕はない。無意識に逃げる身体を引き寄せられて、やっと薄目を開けるくらいだ。そうだな、と言って、ノースディンが続ける。
「手をかけたい、は否定しないが」
「……、で、しょ」
「かけられたいのは誰だろうな」
「ア、っんん……!」
言い返す間もなく、長いものが体内から抜かれる感覚に目も口もきつく閉じる。走った震えがまだ治まらないうち、また中を苦しいほど満たされ、とうとう甘く伸びた声が喉から洩れた。固さを増すそれに何度も繰り返され、苦しさが快楽に塗り潰される頃には、解けた内壁はノースディンのものに吸いついている。入れるだけでも精一杯だった頃、身体がこんな風に変わることなど想像もできなかった。
短い息を繰り返す自分の唇に軽く触れると、少し離れるぞ、とノースディンは囁いた。両脚を抱える体勢になるといくらか体温が寂しくなるが、深く入れられるからだろう、普段は波立たない赤い瞳に欲が灯るのが見られる。軽く目を伏せ息を整える、入れる直前の表情は「師匠」のものではない。
「入れるぞ」
そんなことを言わなくても、今更ここで死にはしない。言われた方が余程、これから来るものに身構えて、鼓動が速くなって、つまり――期待する。
「――ッ、ア…………!」
尖端を埋めたあと、一番深く入る角度で、一度に奥まで貫かれた。仰け反った身体を撫でられ薄目を開ければ、滲んだ視界で小さな光が煌めいた。何を思ったわけでもない。ただ指を伸ばしてみたくなってシーツを掴む手を離したが、ろくに腕も上げられないのだから届くはずはなかった。だからぱたりと、手をベッドに落としたのだが。
「……? どうかしました?」
頭上のノースディンが何だか難しい顔をしていた。言うべきか言わざるべきか迷っているが、言いたいことがある顔だ。あまり迷うことはないから珍しい。
「……ともかく」
「……『ともかく』?」
「集中力に欠けるのはよろしくないな」
「なに……? え、ちょっ、と」
ドラルクの片脚を降ろしたノースディンの手が、おもむろに自身の性器へ伸びてきてぎょっとする。立ち上がって濡れていたものを包まれるだけで声が洩れた。
「っ、それ、中にいるとき、やだ、って」
あまり刺激が強いと体力をまとめて消耗する。そもそも長い時間できないのだから、調整は必要だ。というかいつもそれを気にしているのはノースディンだろう。それなのにドラルクの訴えなど完全に聞こえない顔をして、ゆっくりと手を動かし始める。体勢的に全部見えるのが余計に嫌だ。
「ヒゲ、ちょ、ノース、」
「……苦しくはないな?」
「……っ」
――苦しいとか、そういうことじゃないって、分かってんだろうが性悪ヒゲ……!
こんなに奥まで呑み込んだ状態で、前でいかされたことはない。前に触る必要がないくらい中を良くしたのはノースディンだ。
溢れていた先走りとともに手を動かされるだけで腰が揺れる。それと同時に中が擦れ、入り口がくすぐられ、奥が燻る。さっきあんな風に熱を突き入れられて、中で達する直前まで高まった身体はもう、どちらの刺激で精を放ったらいいのか分からない。
それでも身体は手の動きに合わせて揺れ、中を不規則に締めつける。背筋を駆け上るものに、もう限界だと言葉も出せず首を振った。それを合図と取ったのか、筋を押し上げるように指が動き、身体も同時に揺すり上げられる。
「――……!…………ッ、」
真っ白に頭の中が弾けて、大きすぎる熱に身体を跳ねさせた。精を吐いている間も下腹から熱がこみ上げてきて、息の合間に弱い声が混ざる。達しても解放されず、むしろまた昂ぶろうとしている。
「……ノ……、」
「ドラルク」
ほとんど音になっていない声で呼ぶと、包み込むような声と、手が伸びてきた。首筋や耳元は指先で、胸や腹は手のひらであやすように撫でていく。喘ぎとも甘えともつかない切れ切れの声を零しながら、手の動きを追う。
――気持ちいい。
ただ肌を辿るだけの指が、掠めるだけの手のひらが、暴れていた熱を溶けこませていく。早く、もっと強い刺激がほしい、と思う一方で、ずっとこうされていたいとも思う。つまり、触れられることが好きなのだ。
――手を、かけられたい?
そんなの当たり前だ。いくらでもかけられたい。適材適所なのだ、最初から。
かけたがりの顔を見てやろう、と目を開ければすぐ、こちらを見つめるノースディンと目が合った。機嫌は直ったらしく、細めた目も、纏う空気も柔らかい。結局何だったんだ、とぼんやり思っていると、すまん、と謝られる。
「臍を曲げた」
そのようで、と頷き、でも今は気持ちがいいから許すことにした。目を見て笑うと、はらりとまたハートが落ちてくる。肌に触れる前にノースディンがそれを息で払って、ふと気が付いた。
――もしかして、私がこれに気を向けるのが嫌で拗ねてたのか? 他の誰と仲良くしようと嫉妬なんかしないくせに?
気付くとまた笑いそうになったが今回は我慢だ。これ以上は体力が保たないし、この手を止めてほしくない。
「続けられるか?」
「……それが、止まるまで?」
「……お前が落ちるのが先だな」
苦笑するノースディンに何とか腕を伸ばし、顔を引き寄せる。どうした、と聞くのには答えず目の端に口付けると、自然と瞬くはずみでハートが生まれる。
「……? 何を……おい、まさか」
「……うーん、意外にも微糖」
ぺた、と舌に張り付くとハートは一瞬で溶けてしまった。限りなく無糖に近い微糖で、予想が外れる。見た目からしても、それを生産している目からしても、もっと甘いと思ったのだ。師匠成分が甘さをさっぴいたに違いない。
しばし唖然としていたノースディンが、はー……と息を吐く。
「お前な……そんなものを食べるな」
「なんです、そんなものとは」
私のですよ、と言うと何とも複雑な顔をした。でもそうだろう、ノースディンがドラルクを見て生みだしたハートなら、自分のものだ。
――あ、でも、これはまたお小言かも。
何だか身体がふわふわしてきた。さすが恋人がかわいすぎるあまりに出ちゃったハートだ。早速気付いたノースディンの指先が、体温を確かめるように頬に触れる。
「そういう軽率なことをするからだ。……気分は」
「きもちいいです」
「そうじゃなくてな、」
「アンタにさわられると、いつも」
「…………そ、……」
何か混乱したらしく、待て、と手のひらを見せる男に、知ってました? と追い打ちをかけてやる。
「ねえ、続けられます? ノースディン師匠」
私のかわいさに参っちゃってるようですけど。
ほら早く、と上機嫌でキスを強請れば、諦めた恋人は呆れながらも唇を合わせてくれた。途中思いついたように、口の中のハート成分を拭うよう舐め取っていったがもう遅い。
こんなに度数の強い感情、それくらいで消えたりしないことは本人が一番よく知っているだろう。
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