独占したいの [ 1 ] |
「もうすぐバレンタインっスね〜」 帰り道、コンビニのポスターをちらりと横目で見た黄瀬は、白い息を吐きながら浮かない声でそう言った。誠凛から駅までの道のりだ。 声の調子同様、今にもため息をつきそうな顔をしている。 「ですね」 「こっち遊びに来てもいい?」 「逃げてきてもチョコが増えるだけですよ」 「……ウチの学校にいるよりはいいと思うんス」 「部活に出てから来るなら同じでしょう」 「それがさ」 黄瀬は言葉を切り、不満たっぷりの目で続けた。 「来なくていいって言うんスよ」 「笠松先輩ですか?」 「そう。たまには引きこもって大人しくしてろって」 ひどくない?と黄瀬は目で同意を求める。おそらくそれは、オーバーワーク気味になる黄瀬への強制休養も兼ねての”先輩命令”なのだろう。黄瀬は膨れて見せるが文句を言うのは口だけである。その膨れっ面を黒子はひそかに気に入っている。 「練習前も後も落ち着かないから、体育館にも来るなって言うんスよ。オレがいなくたって女の子来るってのに」 「それ、口に出して殴られませんでしたか」 「蹴られたっス」 「でしょうね」 若干のイラっと感を覚えるものの、バレンタインと黄瀬の誕生日はそんなものだ。 教室で、部室へ向かう途中で、部活後、帰り道と、行く手行く手に女子が待ち構えている。本気の女子は人目を避けるから、ようやく波が引いたと思ったタイミングで現れたりもする。 「とはいえ、キミも毎年大変ですよね」 言うと、斜め上から視線を感じた。黄瀬が目をくるっと丸くしている。 「何ですか?」 「イラっとする、とか言うと思った」 「いや、言わないだけでしてますけど」 「それも地味に傷つくっス……」 嘆きつつ、両手に握ったカイロを頬に当てる黄瀬の横顔に、車のライトが当たった。赤くなった鼻を照らし、頬を照らし、明るく浮かんだ前髪がまた闇に沈む。二月のこんな寒い日に、よく飽きずに誠凛までやってくるものだ。呆れながら眺めていると、カイロがうらやましいと思ったのか、片方をはいと手渡された。 「まあでも、そうやって人気が続くのはすごいことじゃないんですか」 「うーん……そりゃそうなんスけどねえ」 「相変わらずありがたみの薄い反応を……」 「だってさ」 「?」 「バレンタインだって世の中こんな盛り上がってんのに、チョコだってすげー貰えるのに、貰いたい人から貰えないんじゃ余計空しいっつうか」 手の中でカイロをもんでいた黒子は一瞬動きを止め、歩みも止め、思いきり黄瀬を見上げた。それに気付いた黄瀬が小首を傾げる。 「黄瀬君、貰いたい人いるんですか?」 「うん、まあね」 黄瀬は答えながら、また前を向いて歩きだした。特に照れるでもないあっさりした返答だった。 「でも結局、今年も貰えなかったなーって思って終わるんスよね」 「……それは……そうなんですか、ご愁傷様です」 「……今年はまだ終わってないス」 「あ、すいません」 謝りながら、黒子は続々明かされたことに忙しなく目を瞬かせていた。黄瀬とは中二のときに知り合ってかれこれ三年になるが、彼が片想いをしていたなど、少しも気づかなかった。 黄瀬はいつだって女の子にもてる。彼女はいたりいなかったりだけれど、彼は決まって告白される側で、のめりこんでいるところは見たことがない。来るものは選ぶが去るもの追わずで、実は恋愛にはさほど関心がないのだと思っていた。 車の走る音がやけに大きく聞こえた。少しの沈黙ののち、思い出したように黄瀬にもらったカイロを握る。 「キミって、片想いとかしないタイプだと思ってました」 「オレもそう思ってたっス」 「言われても想像つかないですもんね」 「ね。だから告白しても本気にしてくれなさそうなんスよ」 言う前から、結果を想像して拗ねるところまで済ませてるらしい。黒子は小さく笑った。 「珍しいですね、というか」 「……『というか』?」 本気なのだなあと思う。無駄に自信過剰であり、自分さえ気に入ればすぐにでも距離を詰める黄瀬を、ここまで及び腰にさせるとは余程のことだ。 「でもそれ、言ってみたらいいんじゃないですか」 「……え、だって今黒子っちも想像つかないって」 「そうだったんですけど、キミを見てたら、本気なんだなって思いましたよ」 「……そう?」 「はい」 真剣な、でも自信なさげな表情で立ち止まった黄瀬の正面に立ち、黒子は言った。 「そういう風に伝えれば、きっと分かってもらえますよ」 「……そうかな」 「はい」 黄瀬は喉の奥で唸り、目を泳がせ、眉間にしわを寄せて、最後に黒子をじっと見つめた。まるで告白のシュミレーションをしているみたいだ。けれど、それにしては難しい顔をしている。 「いや……、……いやいやいや」 「黄瀬君?」 呼んだ拍子に、黄瀬の首元がさっと赤くなった。 空いていた黒子の片手に、黄瀬の握っていたもう一つのカイロが押し込まれる。カイロも熱いが触れた手も熱い。手はすぐに離れ、黄瀬は空になった両手で目の脇を抑えた。 「…………もうちょっと、心の準備してから、頑張る、っス」 「あの、そんな無理にとは」 「頑張る」 「えっと、はい」 じゃあ、頑張りましょう、と黄瀬の背中を押し、歩きだした。黄瀬は駅に着くまで俯きがちで、悔しそうに唸っていた。 ◇ (そうか、黄瀬君には好きな人がいたのか) 黒子はコンビニのチョコレートコーナーで立ち止まり、それらをぼんやり眺めながら、数日前の黄瀬の様子を思い返していた。 最初、まるで何てことのないように言ったから、それだけ本気なんだと、彼にとってはその誰かを好きなことは当たり前のことなんだなと思えた。そこで十分驚いたがそれ以上に、告白の場面を想像したらしい黄瀬の照れ方は、黄瀬とは思えない純情ぶりだった。 (それじゃあもう……) はあ、と出すつもりのないため息が出た。 黒子は黄瀬を好きだった。今なお現在形で好きである。好きにならざるを得ないでしょう、と半ばキレて開き直りたいくらいに。 出会った頃の態度は真逆だった。それをあっさりと変えた素直さが黒子は嫌いじゃなかった。 それからずっと真正面から懐かれて、バスケをしていればみるみる成長して、何度目を瞠ったか分からない。学校が分かれ、対戦相手として観察し、コートで向き合えば尚更だった。チームのために戦う背中は、自分の知っている帝光の黄瀬ではなかった。 それは偶然自分が好きな、望んでいた姿になっただけで、彼の変化は間違いなく海常に行ったことによるものだけれど、黄瀬には中学の頃の自分の言葉が通じたんじゃないかと思えた。分かり合えるものがあった気がして嬉しかった。 そんな姿を見させられて、その上、彼は日常暇でもないのに黒子の元にひょこひょことやってくるのだ。そして構って、と言うから構えば嬉しそうに笑う。 (好きにならないわけないと思うんですけど) 黄瀬というのは、自分の性別を問わず、好きになる対象ではない。そう思っていたから、黒子は黄瀬を好きだと認めるのがまだ少し悔しい。でも好きだという気持ちの方が、悔しさより勝ってしまったのだ。 しかしその誰かが黄瀬にそんなに好かれているのでは、自分に勝ち目はない。 (いや、最初から勝つも負けるもないんですけど) 自分は男だから黄瀬に告白するつもりも、付き合ったりするつもりなんかもない。最初から、別に、そんなことは。 珍しいことにふと視線を感じ、横を向いたら少し離れたところに女子高校生が立ってこちらを見ていた。黒子がバレンタイン用チョコレートの前にいたからだろう。さすがに居たたまれないので、そのまま店を出る。何だか現実を見てしまった気分だ。 今まで黄瀬が誰かと付き合おうが別れようが流してこられたのは、黄瀬が恋愛に冷めている、というより、女の子全般に冷めているように見えたからだったのだ。買い物もカラオケもデートも黄瀬にとっては重さが一律で、彼の一番はバスケで、バスケをしている仲間である自分は無意識のうちに優位に立っているつもりだったのだろう。 ただ好きなだけだ、と自分を無欲に思い込んでいたことが恥ずかしい。 駅前の本屋の横ではワゴンにチョコレートが詰まれていた。電車の中では、義理チョコがいくつ、自分用にあれこれ、という会話も聞こえる。彼氏に、という声は聞こえても、好きな人に、という声は聞こえない。そういう秘めやかなことは、こんな雑多な場所では話さないのだろう。 そういう秘密を、多分今まで黄瀬が口にしてこなかったことを、話されてしまった。 見たことのない、気弱な顔を見てしまった。 (だからって励ましてどうするんだ……) 自分が黄瀬を好きでいることを、あのとき忘れたわけじゃなかった。でも黒子は反射的に、どこかスレていて、何だかずれてもいる黄瀬が人間らしい方向に進もうとしていると、その道を応援したくなってしまう。モテたって大して面白かないっスよ、とぶん殴りたくなるようなことを言う彼にも、人並みに、かわいげのある恋心が芽生えたらいいなと思ってしまう。 そっちが優先されてしまうのだから、仕方ない。 (そう、仕方ないんだ) 複数の路線が交わるターミナル駅に着けば、駅でもチョコレートが売っていた。こうして気にして見てみると、町中所構わずチョコレートだ。 そのピンクと茶色のふわふわしたコーナーの中に、サラリーマンが一人、混じっていた。 (自分用?ですかね) 別にそれはそれでいいんじゃないかと黒子は毎年思うが、今見たその姿は、何だか例年と違ってしんみりと見えた。そのサラリーマンは別に、頼まれものだったり、何てことのない買い物なのかもしれない。けれど。 無理矢理、黒子はその姿から目を反らした。 チョコを買いたいわけじゃない。買って告白したいわけじゃない。 間違っても女の子がうらやましいわけじゃない。そういうことではなくて。だから。 黒子は二駅そのまま乗り続け、頭上に垂れ込める雲を振り払う気持ちで大きく息を吸って、電車を降り、二駅前に引き返した。 ◇ 「火神君、ガナッシュってなんですか」 「ガ……?」 「……分かりませんよね大体ガナッシュって英語なんですかね」 「食いもんか?」 「多分食べ物です……」 あれから黒子は威勢よくホームへ降り立ったが、結果は惨敗であった。 チョコの種類が多すぎるし、説明はカタカナばかりで分からないし、まず財布の中身が追いついてくれなかった。そのうちに会社帰りのOLたちに流されて、黒子は売り場から押し出されてしまったのだ。 しかし昨日貯金箱からお札を一枚取り出したから、今日は何かのチョコは買える。時間帯も、社会人が仕事の時間ならそれほど混まないだろうから早めに行く算段である。 告白なんてものを、する必要があるのか分からない。 けれど黄瀬に勧めておきながら、自分は体裁のいいことを言って何もせずに引き下がるのでは、格好がつかない。だからまず、チョコレートを買うところから始めたい。勇気を出すということを自分もやってみなければ、せっかく頑張ると決めた黄瀬に、かける言葉もないんじゃないかと思うのだ。 放課後、黒子は掃除当番を火神に頼み、部活にはほんの少しだけ遅れると告げて、例の売場に足を運んだ。 いくら影が薄くても、バレンタインコーナーに男子高校生が制服で現れれば店員も気付く。しかし特別怪訝な顔もされず、いらっしゃいませ、とだけ言って、放っておいてくれた。周囲には大学生と思しき女性が一人いるだけである。これなら、落ち着いて選べる。 (どれにしよう) 改めてショーケースの中、そして棚に陳列されているチョコレートの山を眺める。 まずハートは無理だ。ピンク色のラッピングや、花がついているのも厳しい。 四角いのはシンプルで良かったが、高かった。ボンボンとやらはお酒が入っているらしく、それも却下である。 (何で板チョコがあんなに高いんだろう……) 一番分かりやすいのだが、黒子にはコンビニの板チョコとの区別がつかない。 大体黒子としてはチョコは添え物であって、告白するのが主な目的である。 (口にするかは……まだ分からないですけど) いきなり告白などされたら驚くだろうし、考えれば考えるほど、しなくてもいい方向に考えが向く。 黄瀬が好きな人と想いを通わせることができるなら、その方がいいとも思う。けれど、自分の想いが浮いたままになるのは嫌だとも思う。だから告白の形をとらなくても、ただ余りものを渡すような素振りであっても、黒子の中の区切りとして、チョコを渡したという行動を残しておきたい。 そんなことを悶々と考えていたら、隣から突然にゅっと腕が伸びてきた。 「わ」 「あ、すいませーん」 「いえ、こちらこそ」 横に立っていた女子大生の腕だった。黒子がその場で動かず考え込んでいたからだろう。その彼女は上の棚に飾ってあった、棒のついた四角いブロック型のチョコを手に取り、それを五本ほど買って、売り場から去っていった。 今まで目に入っていなかった、一見棒つきの飴に見えるチョコを、黒子はまじまじと見つめる。あれは何だろう。 (飴……?いや、飴?) 「ホットチョコっスよ」 「っ……!!」 誰が見ても分かるくらい、黒子はその場で驚いて肩を揺らした。黒子の様子につられたのか、黄瀬も驚き顔になる。 「え、そ、そんなびっくりした?」 「っ、……っな、……」 驚きすぎてろくに声も出ない。顔は熱くなっていき、汗も流れてきた。口をぽかんと開く以外、無表情すら作れない。そこまで驚かれる理由が分からないせいか、黄瀬も辺りをおろおろと見回し、ふと何か思い当たったように考え始めた。そして何事かを察した深刻な顔で問う。 「……もしかしてオレ、スルーするべきだった?」 「…………でした」 うっ、と息を呑んだ黄瀬は、黒子をフォローしようと必死で頭を回転させているようだった。 「どうしよ、えっと、その、……見なかったことにする……?」 「…………遅いです」 「声かけちゃったもんね……」 「…………はい」 ごめんね、と少しも悪くない黄瀬は眉を下げて謝った。そして店員の視線を感じてか、自分の手を引き、ホームの端へ移動する。もはや抵抗する気になれず、黒子は顔の汗を拭いながらついていった。穴があったら埋まりたいというか、黄瀬を埋めたい。 二人並んでホームの壁によりかかる。冷たい風に頬の熱が冷まされた。じき電車がやってくるらしい。 「……あのさ、この際突っ込んじゃうけど、自分用?」 「……」 「黒子っち、チョコ欲しかったんスか?」 「……違います」 生憎バレンタインに貰うチョコの数を気にする性格には生まれてこなかったし、大体自分用ならこんなに悩みはしない。 「オレあげよっか?」 「……いりません」 これから一応告白するつもりの相手に、そんな気遣い溢れるチョコをもらってどうする。 「何となく見てただけです」 「……の割に、ずっと悩んで」 「……いつから見てたんですか。ていうか、何でここにいるんですか」 「黒子っちのとこ行こうと思って。オレここ乗り換えっスもん」 (そうでした) 迂闊だった。黒子の通学ルートなら、いつどこで現れてもおかしくないのだ。 普段なら別に困りも驚きもしないのに、それもこれもバレンタインのせいである。 「……黒子っち、もしかして好きな人いるんスか」 「……何でですか」 「や、最初は単にちょっと興味あって覗いてんのかなって思ったんスけど、でもなんか……悩んでるっぽかったから。そういう子がいるのかなって」 こういうとき、普段それとなく救われている黄瀬の察しの早さが恨めしい。しかし、できればこれ以上掘り下げるのをやめてほしい。そこまで察してくれるとありがたいのだが、黄瀬はおずおずとした口調で、さらに訊いてくる。 「……もらえそ?チョコ」 そしてさっき否定しなかったことで、完全に黒子には好きな人がいる設定になってしまった。間違ってはいないし、変に嘘をつくのも苦手だし、とにかく気力が激減のため、正直に答える。 「いいえ」 「そっか……」 オレと同じっスね、と黄瀬が呟く。 「……でもキミは、まだ諦めてないんでしょう?」 言うと、黄瀬は弱った笑顔を黒子に向けた。ポケットから手を出し、巻いていたマフラーを頬まで上げて顔を埋める。 「もらえないの、分かっちゃったんス。その人も好きな人いるみたいで」 「……そうなんですか」 壁に寄りかかり、宙を見上げる黄瀬は、やけに静かだった。マフラーを上げたのは、泣きそうなのを隠したかったのかもしれない。ままならないものだなあ、と黒子は俯く。 電車が到着し、立ったままの二人の前を早歩きの人々が過ぎ去り、いくらか軽くなった車両は真横に流れて去っていった。向かいのホームとの間に、再びぽっかりとした間が空く。 (次の電車に乗って帰ろう) 揃ってうなだれていても仕方ない。黄瀬を連れて学校に戻るというおかしなシチュエーションだが、黄瀬だから、でバスケ部の面々には大体納得してもらえる。 しかし黒子が口を開きかけたときだ。 「それならさ、黒子っち。あげっこしないスか」 黄瀬は訳の分からないことを言い出した。 「はい?」 「オレが黒子っちにあげるでしょ、そのチョコ、その子から貰ったと思って食べるの。で、オレは黒子っちから貰ったチョコを欲しい人から貰ったと思うんス。良くない?」 「いやそれ、余計に寂しくないですか」 「一人で寂しいよりいいっしょ?そんで、来年は頑張ろうって励まし合うんスよ!」 そう言って、胸の前で両の拳を握った。男だってやらないことはないポーズだけれど、黄瀬がやると女子に見えるのはその発想のせいだろうか。 「……キミにお姉さんが二人いるって、今すごく分かった気がしました」 「ねーちゃんたちはオレみたいにかわいくないっスよ?」 じゃあお母さんか、と思っている黒子を置いて、黄瀬は視線をワゴンのチョコレート売り場に向けた。 「ねね、黒子っちがさっき見てたやつでいい?ホットチョコの」 「結局やるんですか」 「そう!五百円ちょーだい。オレ買ってくるっス」 にこにこと手の平を差し出す黄瀬に、黒子は財布から五百円玉を取り出した。金額まで見ていたとは驚きだ。 そうして何の躊躇いもなく買ってきた彼は、全く同じ包みを二つ手に持っていた。一つの紙袋を、黒子に手渡す。カサリと軽く、中央にだけ四角い重みがある。 これは自分の気持ちの重さだろうか、それとも、黄瀬の好きな誰かの重さだろうか。 「十四日、オレんちで一緒にこれ飲も」 「え、キミの家に行くんですか」 「だって黒子っち、自分ち嫌だって言うじゃないスか」 「そうじゃなく、あげるだけかと」 「そんなの寂しいからだめっス!」 「……めんど」 「くーさーくーなーいー」 ため息をつき、はいはい分かりましたと答えると、黄瀬は素直に喜んだ。 いかにもプレゼントのような紙袋を提げて戻るのは恥ずかしく、黒子は中身を出してスポーツバッグにしまったが、彼は慣れているのかそのまま手に持ち、浮かれた様子で袋を振っていた。電車に乗れば話題はすぐに、バスケや学校のことに移る。 自分も黄瀬も、こういう関係がいいのだろう。 『来年は頑張ろうって励まし合うんスよ!』 来年まで、好きでいるのか。 (やっぱり勝ち目はないかな) 流れていく景色に時折目をやる黄瀬を、黒子はそっと盗み見ていた。 >> 続 |